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Vol.4-1 ラス・オゲラス―前編―

Vol.4-1 ラス・オゲラス―前編―

2019/12/13


アリカンテ港のオゲラス(Hogueras)

 さて、今回はアリカンテの一番ビックイベントであるラス・オゲラス(Las Hogueras)について紹介したいと思います。街中に奇妙な紙人形が乱立する一見何が何だかわからないこのお祭り……。しかしこのお祭りと人形達には実は深い歴史と意味が込められているのです。

スペインのフィエスタ(Fiesta)

 アリカンテのオゲラスの前に、みなさんはスペイン三大祭りについてご存知でしょうか。お祭り好きのスペインにはたくさんのフィエスタ※1(祭事)がありますが、その中でも特に有名で毎年多くの観光客が訪れる三つのお祭りがあります。それらがバレンシアの火祭り(3月)、セビージャの春祭り(4月下旬~5月初旬頃)、パンプローナの牛追い祭り(7月)です。アリカンテのお隣であるバレンシアでは、この内の火祭り「ラス・ファリャス(Las Fallas)」が開催されます。約1週間、街全体が紙人形やカラフルな飾りで彩られ、最終日に一斉に火が放たれて全ての人形達「ニノット(Ninot)」が燃やされます。

 このお祭りは、キリストの育ての父でありバレンシアのサント※2(Santo)であるサン・ホセ※3(San José)の物語が起源となっています。大工であったホセが、ある冬の寒い日に、通りで凍えていた町人達のために自身の仕事で使わなくなった材木を燃やし、街を灯りで照らした、というお話です。18世紀ごろからこの逸話に因んでバレンシアのファリャスが始まったとされています。

 今では観光色が強く、職人同士が人形の製作品質を競ったり、道に多くの屋台が出たりとそこまで宗教感は強くないですが、スペインにとって大事な祭事のひとつです。


バレンシア州旗で飾られる街の様子(バレンシア)

アリカンテのラス・オゲラス

 そしてアリカンテのオゲラスはこのバレンシアのファリャスに類似したお祭りです。オゲラ(Hoguera)とはスペイン語で焚火を意味します。こちらも同様に、この日のために多くの紙人形が職人達によって用意され、最終日に一気に燃やされます。アリカンテでは毎年6月24日のサン・フアンの日(San Juan:アリカンテのサント)に開催され、初夏を祝うお祭りとして非常に多くの人で賑わいます。なんでもアリカンティーノ(アリカンテ人)達にとってはバレンシアのファリャスに引けを取らない、むしろより盛り上がるお祭りなのだとか。人口の多さからスペイン第三の都市であるバレンシアに、事あるごとに何かと負けまいとしているアリカンティーノ達です。

マスクレタ(Mascletà)

 さて、双方のお祭りの中でも特に特徴的なのがマスクレタ(Mascletà)と呼ばれる爆竹の打ち上げです。アリカンテの場合は、6月の頭からニノットが燃やされる最終日まで毎週日曜日の午後二時から打ちあがっていました。私は打ち上げ会場である広場のすぐ近くに住んでいるため、その爆音と鳴りやまない歓声に毎回テロかと思い、終始びっくりしていました。会場を囲むように群がるアリカンティーノたちをかき分け、打ち上げ初日は至近距離でマスクレタを眺めたのですが、轟音すぎてめまいがするほどでした。苦しんでいる私を見た隣のおじさんが「口を開けて叫ぶんだ!じゃないと鼓膜が破けてしまうよ」とアドバイスをくれました。なかなかデンジャラスなお祭りなのですね……。

 この爆竹は花火ではないので、ただ単に爆音と何も見えなくなるほどの白い煙がたちこめるのみなのですが、バレンシアとアリカンテ両都市の住民はこれが本当に大好きなようです。所要時間は初回5分ほどだったのですが、祭りの本番が近づくにつれどんどんパワーアップし10分ほどに。さらに最後の週は日曜だけでなく、ほぼ毎日上がるようになっていきました。

 マスクレタの爆音は日本人が和太鼓の力強い音を聞くときのような、地中海民の魂を震わせる音なのかもしれません。ちなみにこのマスクレタというのはバレンシア語であり、例えばマドリードの人たちにこの爆竹の良さを説いても納得は得られないそうです。バレンシアとアリカンテ特有の文化嗜好なのでしょう。彼らにこのうるさいだけの爆竹ショーのなにがいいのかを訪ねると、「これを聞かないと夏は始まらないよ、夏に向けてテンションをあげるためなのさ」と言っていました。


打ち上げ会場に設置された大量の爆竹

 人形に込められた意味、最終日の点火式、また祭りと共に開催される行事などまだまだたくさんの魅力が詰まったオゲラスについて、次の記事でさらに深堀りしていきたいと思います。

※1フィエスタ……カトリックの国であるスペインには、キリストにまつわる祝日が数多くあり、そのほとんどが国民の祝日です。また各地域に存在するサント※2の日にはその地域のみの休日があることも。また、スペイン語でフィエスタは夜にディスコなどへ踊りに出かけることやホームパーティーなどのことも指します。

※2サント……英語ではセイント(Saint)でキリスト聖書上の人物のことを指します。スペインでは各地域にサントが存在し、フィエスタの名称もこのサントの名前が使われます。日本でいう土地神様のような感覚です。女性の聖人はヴィルヘン(Virgen)といいます。

※3サン・ホセ……英語では「ヨセフ(St. Joseph)」。聖書上のイエス[スペイン語ではヘスース(Jesús)]の義理の父でバレンシアのサント。聖母マリアが神の子イエスを宿した際にマリアの夫だった人なので、育ての親という位置づけになっています。

ライター:NANA

東京都八丈島出身。趣味は読書とお散歩で、旅行雑誌を読んで行った気分になるのが好き。スペインの好きなところは、一瞬一瞬を楽しむことに全力を注ぐスペイン人の生き方と、美味しい食べ物。スペインのアリカンテ大学(バレンシア州)への留学体験記を執筆中の、フラメンコを踊れるライター。

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