木々が色づき、茜色の夕日に里山が映える季節となりました。冬がくる前の一瞬、鮮やかに輝く紅葉に心を躍らせ、歴史ある温泉で冷えた体を温めるのは、日本の秋ならではの楽しみですね。栃木県は、豊富な源泉と景勝地に恵まれた、絶好の行楽地です。今回は、栃木県の「会いに行ける」妖怪をご紹介いたします。お出かけの際、「妖怪スポット巡り」を楽しみの一つに加えてみてはいかがでしょうか。
空から降る獣、雷獣
宇都宮餃子で有名な栃木県宇都宮市付近は、日本一落雷が多い地域であることをご存知ですか?ついた異名は「雷都(らいと)」、雷の都です。特に初夏から秋口にかけては、夕方になると毎日、空が割れるような雷鳴がとどろきます。
栃木県と茨城県は、「雷獣(らいじゅう)」の生息地注1といわれています。雷を起こす神様といえば、「雷神(らいじん)」ですね。真っ赤な体に虎皮をまとい、背中に太鼓を背負った姿が有名です。
その一方、雷獣はネズミに似た姿をしています。体はイタチより大きく、鋭い爪をもち、尻尾は二股に分かれています。普段は山の中に穴を掘って棲んでいるのですが、雷雲を見つけると、さっと飛び乗ります。そして、ものすごい音をとどろかせながら、稲妻となって駆け下り、周囲を荒らしまわるのです。そうして雷に打たれた倒木には、雷獣の爪痕が残っているのだとか。宇都宮では、きれいな稲妻の形をくっきりとみられることが多いので、駆け下りる獣の影がないか、ぜひ探してみてください。雷を楽しみに旅をするというのも、またおもしろいのではないでしょうか。
九尾の狐が変化した、殺生石
宇都宮餃子を堪能したら、少し北へ足を延ばしてみましょう。那須湯本には、「鹿の湯」と呼ばれる名湯があります。怪我をした鹿が源泉で傷を癒しているところを、地元の猟師が見つけたことが始まりとされています。お湯の色は、ほんのり青緑のにごり湯(硫黄泉)で、切り傷や打ち身に強い効果があるといわれています。歴史ある湯治場の雰囲気に時を忘れようと、県外からも多くの人が訪れます。
この「那須温泉 鹿の湯」の近くの公園内にあるのが、かの松尾芭蕉も見物に訪れた「殺生石」(せっしょうせき)です。「殺生石」とはその名の通り、近づくものの命を奪う、恐ろしい石です。
硫黄の香りただよう「賽の河原」注2(さいのかわら)を進むと、奥の山肌に殺生石が鎮座しています。石には、封印のしめ縄が張られています。それでも、緑が茂る山の中で、殺生石の周りだけは草木が生えず、周りには蜂蝶のたぐいが、重なり死んでいる注3のだとか……。
その正体は、九尾の狐注4(きゅうびのきつね)です。この狐は、平安時代に「玉藻の前」(たまものまえ)という美女に化けて帝を誑かしていました。しかし、陰陽師に正体を見破られ、はるばる那須湯本まで逃げてきたのです。退治されたあとも、大きな石に変化(へんげ)して怨念と毒気を振りまき、近づくものの命を奪い続けています。くれぐれも、石に近づきすぎないよう、そして長く留まらないよう注5、ご用心を。
いかがでしたか?
その他にも、栃木には竜の棲む滝壺(華厳の滝)や、百目鬼(どうめき)の住む洞窟(長岡百穴古墳)など、さまざまな伝説が残っています。日光や那須などへお出かけの際には、紅葉や温泉を楽しむお供に、ぜひ「栃木県の妖怪巡り」を楽しんでくださいね。
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[脚注]
注1:竹原春泉の「絵本百物語」では、雷獣の棲息地は茨城県の筑波周辺と栃木県の二荒山(にっこうざん)周辺とされていますが、国際日本文化研究センターの「怪異・妖怪伝承データベース」によると、全国各地で目撃談があるようです。
注2:三途の川の手前にある河原のこと。
注3:松尾芭蕉の記述、「石の毒気いまだ滅びず、蜂蝶のたぐひ 真砂(まさご)の色の見えぬほど重なり死す」より
注4:九尾の狐は、8世紀ごろ唐(中国)から日本へ渡ってきたとされています。
注5:殺生石の周辺は、硫化水素ガスが発生しているため、長時間の散策は避けてください。
[Reference]
鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』、角川ソフィア文庫、2005年
竹原春泉『絵本百物語―桃山人夜話―』、国書刊行会、1997年
水木しげる『図説 日本妖怪大全』、講談社+α文庫、1994年
Yokai.com 2019年11月11日
国際日本文化研究センター 怪異・妖怪画像データベース 2019年11月11日
「語り継がれる未知なる世界へ 栃木妖怪図鑑 8月9日号 1面特集」Living栃木 2019年11月11日
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