天使などの豪華な彫刻が特徴のカトリック寺院(ムルシア大聖堂、ムルシア:Murcia)
¡Hola!(オラ!)、こんにちは!今回は、スペインの宗教事情とそれにまつわる宗教行事についてお伝えします。実際に行事に参加したり、スペインの友人と話したりするうちに、スペイン人の生活には宗教が密接に関わっていることがわかってきました。
スペインの宗教事情
スペインでは国教が廃止されており、信仰されている宗教は様々。しかし、キリスト教がその多くを占めています。スペイン政府の発表では、国内の宗教施設のうち、70%はカトリック礼拝堂なのだとか。残り30%の内訳は、約17%がプロテスタント、約7%がイスラム教の礼拝堂となっています。
スペインはイスラムの侵攻を受けた歴史から、イスラム教の影響を色濃く受けている国です。特に南のアンダルシア地方では、イスラム建築の様式をとったキリスト教の大聖堂も存在しています。キリスト教とイスラム教、そして信者数は多くはないですが仏教も存在する、様々な信仰が絡んでいる国。それがスペインです。
カトリックとプロテスタント
ここで簡単に、スペインで最も信者の多いキリスト教のうち、カトリックとプロテスタントの違いについてご説明します。キリスト教には様々な宗派が存在していますが、その中でも信者の数が多く、主に西欧諸国で信仰されているのがカトリックとプロテスタントと呼ばれる宗派です。
カトリックは旧教とも呼ばれ、古くから信仰されていた宗派です。善い行いを積み重ねることで、どんな罪人でも救われるという教えのもと、巡礼や寄付、ボランティアなどを積極的に行います。また、カトリックではかつて聖書の自国語訳が認められず、神父の話や美術・音楽を通して神の言葉が伝えられていました。そのため、ミサ※1の開催もカトリック特有のものです。ローマ教皇を最高指導者とした階級制度や、神父の婚姻の禁止など多くのルールが存在しているのも特徴です。礼拝堂や教会は、ステンドガラスや宗教画、聖人の像などでゴージャスに彩られており、スペインではバルセロナのサグラダ・ファミリア教会が特に有名です。
キリストの受難の曲面や聖書の内容を模したカトリック寺院の装飾(トレド大聖堂、トレド:Toledo)
16世紀に宗教革命が起きたことで、プロテスタントという宗派が誕生しました。当時ローマ教会は、資金を調達するために、免罪符(購入することで罪から解放されるとする札)を発行していました。利益を求めた宗教の世俗化に対し、マルティン・ルターという神職者を主導に抗議運動が行われ、カトリック(旧教)から分離したのがプロテスタント(抗議者たち・新教)です。キリスト教をより自由に解釈するために、聖書を自分で読み、考えるという信仰のスタイルをとっています。したがって階級制度はなく、教皇のような存在もないようです。また、プロテスタントでは指導者が説く善行ではなく、信仰によってのみ救われるという教えになっています。豪華絢爛なカトリック寺院に比べるとプロテスタント寺院は質素なデザインが特徴で、偶像崇拝をしないことから寺院内にキリストの姿はありません。
セマナサンタ(Semana Santa: 聖週間)
スペインには4月後半から5月初旬のどこかで聖週間という大型連休があり、この間に街中で盛大なパレードが開催されます。開催日は毎年暦によって異なりますが、日曜日から土曜日までの一週間でプロセシオン(procesión:聖行進)が行われます。お祭り好きのスペインなので、地域によっては聖行進の前後も休日となり、パレードやイベントが催されるところもあります。聖週間(カトリック名)は、別名受難週(プロテスタント名)とも呼ばれ、キリストが十字架の死から復活されたとされる日の前日までの、最後の一週間を指します。よって、聖行進で担がれる像は、聖母マリアの像とキリストの死までの受難の各局面を模したパソス(Pasos:像)です。曜日ごとに聖書を基にしたストーリーがあり、最も有名かつ盛り上がるのが木曜日の「最後の晩餐」のシーンです。キリストとその弟子たちがパンとブドウ酒を並んで口にしている場面は、有名なレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』を始め、多くの画家によって描かれています。土曜日にキリストが磔になり一度死を迎えたあと、次の日の日曜日に復活を遂げたとされ、その逸話がもとになっているのが復活祭(イースター)です。
プロセシオンで運ばれるキリストの像
私はこの期間中に学校が休みだったため、国外に旅行していて、全ての聖行進を見ることは叶いませんでした。ですが、「水曜日」の聖行進を観ることができました(なんと、行進は2時間ほども続きました)。 この行事は、スペイン中の人々が老若男女問わず通りに集まるほどの規模で行われます。イメージとしては、日本のお神輿や山車に近いものがあります。パソスはかなりの重量があるため、成人男性が何十人と集い、一歩一歩足並みを狂わせることなく歩まないと、前には進めません。そのため、この聖行進のために毎年練習を重ねているそうです。その足並みはぴたりと揃い 、まるで上の像が独りでに揺れているようでした。サエタ(Saeta)と呼ばれる、どこかフラメンコに似た曲調の行進曲にあわせ、どっしりと地を踏みしめていく姿は、信者でない私も感動してしまうほどの迫力でした。信者の中には涙を浮かべている人の姿も。キリスト教徒にとっては大事な祭典なのだと深く感じさせられました。
ナサレノスの行進
この時、聖母マリア像を担いでいたのは女性でした。男性であっても、額に汗を滲ませ息を切らしているのに、その重い像を女性が担いでいる姿に、通りの鑑賞者からは盛大な拍手が起きていました。パソスの他にも、ナサレノス(Nazarenos:イスラエル北部ナザレ出身の者)という、黒いとんがり帽子の覆面を被った謎の集団が登場します。一見不気味に感じるかもしれませんが、実はその姿は原始キリスト教徒の姿を模しているそうです。全身黒ずくめの衣装で、手には火の灯ったろうそくを持ち、中には最長10時間以上にも及ぶ聖行進を裸足で行う者もいるそうです。少し怖い雰囲気がありますが、行進の途中では懐からお菓子を取り出し、子供たちに配っていました。子供たちは体に赤いものを身に着けて、ナサレノスにお菓子をねだっていました。ハロウィンのような雰囲気もあり、もしかすると時代とともに変化した結果かもしれませんが、楽しげな雰囲気も混ざったパレードでした。
私はアリカンテで行われたものを鑑賞しましたが、スペイン国内で最も有名な聖行進はマラガ、セビージャ、カスティーリャ・イ・レオンのものです。音楽や行進にかかる時間も違いがあり、多くのキリスト教信者が集まります。
次回は、スペインと宗教の関係を語るうえで欠かせない、「聖地巡礼」についてご紹介します。お楽しみに!
※1…ミサはキリスト教の礼拝所にて毎週日曜日に開催されます。主に神父が聖書の内容を信者に読み聞かせたり、信者が聖歌を合唱したりするなどして、神の教えを説く場です。日曜日以外にも、クリスマスなどのキリストゆかりの大行事の際も行われます。
ライター:NANA
東京都八丈島出身。趣味は読書とお散歩で、旅行雑誌を読んで行った気分になるのが好き。スペインの好きなところは、一瞬一瞬を楽しむことに全力を注ぐスペイン人の生き方と、美味しい食べ物。スペインのアリカンテ大学(バレンシア州)への留学体験記を執筆中の、フラメンコを踊れるライター。
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