日本には、たくさんの妖怪たちが、息をひそめながらこっそり生息しています。みんな気になってはいるけれど、実はよく知らない日本の妖怪たち。本コラムでは、そんな妖怪たちに、少しずつ物陰から出てきてもらい、その魅力を紹介していきます。
登場するのは、姿形が絵に残され、名前もきちんとついている、江戸時代から生息が確認されている注1妖怪たちです。変化(へんげ)が得意な狸、狐、貉注2(むじな)については、どんな姿にも化けてしまうため、機会があればのご紹介といたします。
それぞれの妖怪に太陽の光をあてる前に、日本にはどんな妖怪たちが暮らしているのか、簡単にご説明させていただきます。
土地の文化と関係の深い妖怪たち
妖怪の中には、条件がそろわないと人前に姿を現すことができないものたちがいます。たとえば、その土地・地域にしか棲みつかない妖怪もいますね。対して、日本全国どこでも出現するけれども、出る場所やタイミングが決まっている妖怪もいます。
その土地にしかいない妖怪は、それぞれの地域の伝承や信仰、タブー、文化と深い関わりを持っています。たとえば和歌山県と奈良県にまたがる果無(はてなし)山脈に出現する、「一本だたら」。イノシシに似た毛むくじゃらの体に両手、片足、片目がついた妖怪で、目は赤いそう。
その姿は、この地方で「たたら製鉄」が行われていたことと関係があります。製鉄の際には片足でたたらを踏み、片目で火の様子を見続けます。たたらを踏み続けると、その片足は高温にさらされ続けてぼろぼろになってしまうのだとか。そして、火を見続ける片目はどんどん視力が落ち、ついには失明してしまうこともあったそうです。一本だたらは、その製鉄の文化を体で表しているのですね。
場所・シーンと関係の深い妖怪たち
次に、地域性はないけれども、出現する場所やタイミングが決まっている妖怪についてご説明します。例えば、「河童」や、「川赤子注3(かわあかご)」などです。河童は水場に生息していることはよく知られていますが、池と沼について、河童が棲んでいれば沼、棲んでいなければ池、という見分け方注4をご存知でしょうか?
また、夜道を一人でとぼとぼ歩いているとき、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきたとします。そばに川があれば、川赤子が近くにいるかもしれません。もし、川があって雨も降っているなら、きっとそこに浮かんでくるのは、赤ちゃんを抱いた悲しげなお母さんの幽霊、「うぶめ(姑獲鳥注5)」の背中です。ただ大きな石がごろっと転がっていて、女性のすすり泣きが聞こえてきたら、泣いているのは「夜泣き石」に違いありません。これらの妖怪は、決まった舞台装置の上に現れて、お決まりの役を演じます。
いかがでしたか?
次回の記事では、付喪神(つくもがみ)や、物語によって生み出された妖怪たちについて見ていきたいと思います。どうぞ、楽しみにお待ちください。
[脚注]
注1:本コラムでは、妖怪の名前、姿について、主に『画図百鬼夜行全画集(著:鳥山石燕)』を参考にしています。
注2:穴熊やハクビシンのこと。狸を指す場合もありますが、ここでは区別しています。
注3:『画図百鬼夜行全画集』では、川赤子は河童の一種とされています。
注4:「カッパ池」という池も全国的に存在するので、あくまで一説です。
注5:「うぶめ(産女)」を人間の幽霊、「こかくちょう(姑獲鳥)」を鳥の妖怪とする説もありますが、ここでは『画図百鬼夜行全画集』の表記に従っています。
[Reference]
鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』、角川ソフィア文庫、2005年
竹原春泉『絵本百物語―桃山人夜話―』、国書刊行会、1997年
水木しげる『図説 日本妖怪大全』、講談社+α文庫、1994年
Yokai.com 2019年9月27日
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