前回の記事では、その土地固有の妖怪と、出現する場所やタイミングが決まっている妖怪についてお話しいたしました。今回は、物が化けた妖怪・付喪神注1(つくもがみ)と、物語からこの世に出てきた妖怪について、簡単にご説明いたします。
物に魂が宿った妖怪たち
妖怪のなかには、日本のアニミズム信仰注2によって命を吹き込まれた妖怪たちがいます。つまり、付喪神や、物が化けたもの。日本では、古来から万物に魂が宿っていると考えられていますが、特に、人間が想いを込めて長く使ったものは付喪神になるといわれています。ぼろぼろのずるずるに引きちぎれるまで使い込んだ雑巾は「白うねり(白容裔)」となり、まるで竜のように動き出します。穴があき、何度もつぎはぎをしたけれど、綿が飛び出してしまった綿の掛け布団は、ついには立ち上がって「ぼろぼろとん(暮露々々団)」に。付喪神に会いたかったら、物を大切に何度も修理しながら、長くながく使ってみることをお勧めします。
物語から生まれた妖怪たち
そして、忘れてはいけないのが、おどろおどろしい怪談に息を吹き込まれ、この世に這い出してきた妖怪たちです。みんな、それぞれが悲しいストーリーを持っています。まず、江戸時代の歌舞伎、「東海道四谷怪談」(鶴屋南北 作)に登場する「提灯お岩」。旦那さんの民谷伊右衛門(たみやいえもん)に裏切られて命を落としたお岩さんが、恨みのあまり提灯に憑りついた姿です。なんとも恨めしそうですね。それに、よく混同されるのが播州皿屋敷注3の逸話に登場する「お菊さん」。お菊さんは、奉公先の大事な十枚ひとそろいのお皿を、一枚割ってしまった濡れ衣を着せられ、井戸に身を投げてしまうのです。そこから夜な夜な、井戸のふちで悲しげにお皿を数え続け、「一枚足りない」と嘆くのだとか……。これらの妖怪たちは、江戸時代から人間を戦慄せしめ続け、ついには現世にその姿をとどめる力を手に入れたのです。
いかがでしたか?
少しでも、私たちが昔から畏れ、共存してきた妖怪たちについて、興味を持っていただけたら嬉しく思います。妖怪が人間から身を隠さずにいられるためには、人間がその生態を知り、怖れをいだくことが一番の近道なのですから。
このコラムでは、これらの妖怪にスポットライトを当て、みなさんにご紹介させていただきます。どんな妖怪が登場するか、お化け屋敷の引き戸に手をかけたような心持ちで楽しみにしていただければ幸いです。
[脚注]
注1:「九十九神」と表記されることもあります。
注2:万物に霊魂が宿るとする考え方を指します。
注3:「播州皿屋敷(兵庫県姫路)」とする説と、「番町皿屋敷(東京都赤坂)」とする説があります。
ここでは鳥山石燕の『画図百鬼夜行全画集』、「皿数え」の説明に従っています。
[Reference]
鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』、角川ソフィア文庫、2005年
竹原春泉『絵本百物語―桃山人夜話―』、国書刊行会、1997年
水木しげる『図説 日本妖怪大全』、講談社+α文庫、1994年
Yokai.com 2019年10月17日
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